インド映画、南北対決!

今日は少々ボリウッド以外にもみてみましょう。

ファンのかたには既知のことではありますが、ちょっとおさらいをいたしますと。

インドはまごうことなき多言語国家です。英語やヒンディー語が広く使われているとはいえ、地方の公用語がなんと22言語あるそうです。学者さんのような難しいことをここで述べる知識が残念ながらありませんので、言語については、ここは手早くウィキペディアのインドの言語インドの公用語の一覧インドの言語の話者数一覧あたりをご参照くださいね♡

ひとついえることは、これだけの多言語国家であるゆえ、インド映画といっても一枚岩ではなく、それぞれの言語に基づいた映画界があるということです。北インドのヒンディー語圏の映画界のことを、ハリウッドをもじってボリウッド(Bollywood)と呼ぶことは、インド映画好きではなくてもなんとなく聞いたことがあるかもしれません。インド国外の顧客開拓がいちばん進んでいるのもこのボリウッドです。またボリウッドファンはおそらくこれまでにも何百回も繰り返し説明してきたかと思われますが、「ムトゥ 踊るマハラジャ」(日本公開は1998年)は南インドのタミルナードゥ州を中心としたタミル語映画界コリウッド(Kollywood)の作品であります。

ボリウッドとコリウッドだけでもすでに「でも、どうぜ全部インドなんでしょ」といいたくなってしまうところ、実はまだまだ言語の違いによる「ウッド」をもじった名称が存在するようです。

それぞれの映画界はそれぞれの話者や風土によって作品のテイストもかなり違っており、インドの人からみるとおそらくお互いに外国と同じくらいの差があるようです。俳優さん女優さんは複数の映画界をまたいで活躍している人も多くいますし、全国区で大スターの俳優もいますが、基本的にはそれぞれの映画界にそれぞれの大スターや大女優がいて、みなさんそれぞれ住み分けています。インドでは地方に行くと州をまたいで親族がいたりして、人々も複数言語を理解したりします。そんなわけで、これら言語ごとの映画界、一地方映画界かと思っていたら意外とターゲット層が厚かったりします。なんせインドの人口12億ですのでねー。

そこでなにが起きるかといいますと。どこかの映画界でヒットした作品を別の言語地域で上映することはせず、吹き替えでもなく、なんと役者総入れ替えでリメイクするんですね。南インド同士のリメイクだと私からはそれほど違いが生まれるようには思えません。南インドのみなさんすみません。

同じ作品のリメイクを実例としてみていきます。


たとえば南インドのケーララ州を中心にしたマラヤーラム語映画の最初の作品(「ムトゥ 踊るマハラジャ」のふくよか美女ミーナが、あれから幾年さらに背脂を増して妻役を演じています)。こちらはモリウッド(Mollywood)。

Drishyam(2013年)
DrishyamMovie


続いてこちらも南インドのアーンドラ・プラデーシュ州を中心にしたテルグ語版のリメイク。こちらはトリウッド(Tollywood)。

Drushyam(2014年)
Drushyam_poster


同じ作品のさらなる南インド版リメイク、今度はカルナータカ州を中心にしたカンナダ語版のリメイク。こちらはサンダルウッド(Sanalwood)。それって香木・白檀(びゃくだん)の英語名なのではと思いつつ、もうなにがなんだか。

Drishya(2014年)
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ぜえぜえ。ええええ、どうせ全部インドですよと私ですらいいたくなります……。物好きなことに、Youtubeにあったカンナダ語とテルグ語を観たうえ、原作のマラヤーラム語まで観てしまいましたよ。確かに同じ南インドでも少しずつテイストが違います。でもやっぱりよくわかりません。修行が足りません。


しかしこの投げやりな感想も、満を持して北インドのボリウッドでリメイクされた同作品を観た際には、ガラリと印象が変わりました。舞台は旧ポルトガル領のゴア州。もともとインドのなかでもインドらしさが薄い地域という意味でもほかのコテコテインド風味とは一線を画していました。

“Drishyam”(2015年)

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このボリウッド版は、ボリウッドの元祖「顔が濃い男」アジャイ・デーヴガン(Ajay Devgan)がお父さん役を務めています。この人はアクションに定評があり、昔からとにかく熱い! そして濃い! 寡黙な怒れる男などをやらせたらほんとうにハマります。


しかしこの濃いと思っていたアジャイ。南インドの別バージョンのお父さんたちと比べてみたらダントツに垢抜けてカッコよく、そしてなぜかホッとします。

比べてみましょうか。

アジャイ・デーヴガン(Ajay Devgan)演じるお父さん
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モーハンラール(Mohanlal)演じるお父さん
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え? どちらも充分濃い? まあそうですね、濃いですね。認めます。

ちなみにお話は、家族を守るために冷酷無情に戦うお父さんのお話です。この濃ゆい顔でギロっと睨まれたら私なら逃げます。最近増えてきたトリックがしっかりしたサスペンスで、映画というよりは、ちょっと2時間サスペンスっぽいつくりではあるのですが、日本のみなさんにも楽しんでいただけそうな作品です。日本の映画「容疑者Xの献身」のパクリ疑惑があるとのことでこちらも観てみましたが(どれだけこの映画に時間を費やしたことか)、うーん、どこがどうパクリなのかはよくわかりません。オリジナルということでよいように思います。

マラヤーラム語版では南インド的にお米とココナツからつくった蒸しパン「プットゥ」やバナナだった朝食が、ヒンディー語版では小麦でつくる無発酵パン「チャパティ」らしきものになっていたり、前者ではヒンドゥー教の家庭だったのが、後者ではキリスト教徒の家庭になっていたり、地域の違いを観ることができて楽しめます。

それでは、少し薄いお父さん版(当社比)のヒンディー語版Drishyamの予告編を貼っておきましょう。まあなんちゅうか、ヒンディー語版がいちばん、家族と対決する女警官も含め、女優陣も日本人好み……かな。

タイトル”Drishyam”は「見えていること」の意だそうで、副題が”Visuals Can be Deceptive”(見えているものは騙すかもしれない=見えているものだけにとらわれると騙されるかもしれない)となっています。

投稿者: アンジャリ(Anjali)

アンジャリ(Anjali)
Masala Press代表・印流楽しいこと案内人。神奈川県茅ヶ崎市生まれ。東京外国語大学インドネシア語科卒。学生だった1997年にバックパッカーとして単身インドを訪れ3ヶ月を各地で過ごす。以後、インドの舞踊と映画に心酔。ガイドブックなどのライターを経て旅行会社に就職、インド専門添乗員を務めるも、2001年からはインドとロンドンを拠点に放浪生活を送る。2006年に本帰国、外資系証券会社に再就職、10年間の会社員生活を経て、現在、インド映画の印流ブームを興すべく奮闘中。